金沢を中心とする加賀藩は、江戸時代最大の藩で、加賀•能登•越中に広がった加賀百万石の文化や生活は、江戸とならんでこの時代を代表するものでした。
江戸時代の加賀藩を中心とした民家をひろく集め、移築して展示公開してきた「旧江戸村」の閉鎖にともない、この民間施設を引き継いだ金沢市は文化財保存上、より適した当地への再移築に二〇〇三年より着手しました。そして二〇一〇年九月、農家三棟、武士住宅一棟、商家二棟、宿場問屋一棟、武家門一棟、総計八棟の移築が完了し、「金沢湯涌江戸村」が開設されました。そして二〇一三年九月、新たに紙漉き農家が移築され、公開の運びとなりました。
大正時代を代表する詩人画家•竹久夢二(一八八四年-一九三四年)は、独学で絵を学び、コマ絵画家としてデビューしました。その独特な画風と詩境は時代の共感を呼び、美人画、デザイン、子ども絵などの諸分野において、柔軟な感性とたゆまぬ精進によって先駆的な作品を生み出しました。夢二は自然豊かな湯涌を「心の故郷」と記し、ここに画室を建てたいと夢を語り生涯忘れることはありませんでした。”湯涌なる山ふところの小春日に眼閉ぢ死なむときみのいふなり”「山へよする」はそんな夢二の想い出をうたった絶唱です。当館は夢二と金沢、そしてこの湯涌との縁にもとづいて、彼の業績を顕彰するため、二〇〇〇年四月に建てられました。
「金沢湯涌創作の森」は、明治、大正期の貴重な建物を保存活用するため、里山の新たな文化拠点として金沢市が整備したものです。五つの登録有形文化財を含む古民家群は、草木染•藍染、織、版画制作のための高度な専門設備をもった工房やギャラリーへ改装、誰もが自由に使える創作•発表の場として甦りました。工房では初心者講座や工房体験プログラムも開講しています。また、各種教室やセミナー、稽古、撮影会などのための多目的研修•宿泊施設も備え、滞在や合宿にご利用頂けます。九万㎡にもおよぶ敷地の中は回廊でつながれ、施設全体が癒しと創造の交流空間となっています。